手を、繋いでいた。
 固く、ぎゅっとじゃなくて。
 軽く、軽く。ふわりと。
 お互いの指先だけで繋がっていた。




 春が来て私は高等部の二年生に進級した。
 大きく変わったことは、ない。
 ・・・そう、思っていたけれど。

 この学校特有の「姉妹制度」。
 そして私の立場上、どうしても「妹」候補の新入生たちに視線がいく。


 ミツケテ、シマッタ


 他の子たちより頭一つ近く背が高かっただけじゃない。
 だって背が高い子なんて、他にもいた。


 ダッタラ、ナゼ



 新入生歓迎会の時、食い入るような熱っぽい視線の中に一つ、明らかにそれらと異なる視線を見つけた。
 醒めているのとはまた違っていて、少し緊張気味の表情にとても似合っていた。
 私は、その子のクラスを頭に留めた。

 歓迎会の間私はその子が気になっていた。残念ながらお姉さまがおメダイをかけるクラスにその子はいなかったので、近くで見ることは出来なかったのだけれど。

 式が終わり、新入生たちが退場する段になって。
 何故か、今を逃すともう声をかける機会を逃してしまうと思った。

 「お姉さま、すみません。ちょっと抜けます」

 退場していく新入生たちを見守っているお姉さまにそう言うと、返事も聞かずに私は壇上から降りた。

 さっきの子を追って、まっすぐ歩く。
 人は多いけれど、きちんと整列しているから、いや、整列していなくても見失うわけがない。

 根拠は、ないけど。
 でも、自信がある。

 「ちょっと、待って」
 「・・・はい?」

 腕を掴んで引き留めて。声をかけるとベリーショートの彼女はしっかりした声で返事をした。

 「あなた、私の妹にならない?」

 彼女は僅かに微笑んだ。

 「ありがとうございます。一日、考えさせて下さい」

 きちんと、目を逸らさずに告げてきたから。
 私は、「この子だ」と思った。


 翌日、放課後になって薔薇の館を訪れてきた彼女は私の申し出を受け入れた。

 「支倉令です」

 おかしなことに、自己紹介されるまで、私は彼女の名前を知らないということに気付いていなかった。


 何日かしてお姉さまと二人きりになることがあった。
 私は、頭を下げた。

 「すみません」
 「・・・何か謝るようなことをしたの?」
 「いえ・・・」

 こんなに早々と妹を決めてしまったことに、今更ながら不安になった。
 既に「黄薔薇のつぼみ」である以上、もっと山百合会の立場から考えるべきだったのかもしれない。

 「後悔してる?」
 「いいえ」
 「じゃあいいわ。私は喜んでるのよ。あなたが一目惚れして決めたことだもの」

 一目、惚れ。

 そうか。
 あれは、一目惚れだったんだ。


 令は私に懐いてくれた。真剣な表情が、緩く、可愛く笑うことを知った。
 令の話の中には、従妹の「由乃」ちゃんが数多く登場した。
 どうやら、私から見れば「妹」の令も、違う誰かにとっては「姉」であるようだ。



 お姉さまと並んで立ち、令とは手を繋いで。
 令を引っ張っていく形で、お姉さまと。
 三人で。

 それが、心地良かった。



 高等部で三度目の桜を見ながら、一年前を思い出していた。
 視線の先には、令と、その妹の姿。

 私の隣にお姉さまはいない。


 私は、令の手を、離した。

 ――私、から。


 令の手は、以前から聞いていた従妹の子としっかり繋がっていたから。

 私が気付いていなかっただけで、それはずっと昔から、従妹の彼女の為に存在していたのだろう。

 もちろん、令が私を必要としなくなるなんてことは思ってもいない。
 きっと今までと変わらずに懐いてくれるだろう。

 でも、やっぱり。
 自分よりその手を必要としている人がいるなら。



 心地良かったものを二つとも、望んでいたわけではないけれど手放してしまい、私は随分と身軽になってしまった。



 誰か、いつか。



 私を一番必要として。




 手を、握って。



あとがき

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