「ねえ、髪切ってよ」
私が唐突にそう言うと、優秀な彼女は「意味わかんない」といった表情で私を見た。
「・・・・・・は?」
「だから、髪の毛切って」
今度は自分の髪を摘まみながら言ってみた。
口を半開きのまま彼女は少しの間沈黙し、やがて疑問を口にする。
「私が、聖の髪を?」
「うん。ダメ?」
「ダメってことはないけど。美容師に切ってもらった方がいいんじゃないの?」
「蓉子がいいの」
あまり乗り気ではない蓉子を拝み倒し、何とか髪を切ってもらえることになった。
シャキッ
後ろの方の髪が切り離されるのが分かった。
私が「好きな長さにしていいから」と言ったら、蓉子は笑って「じゃあ丸坊主」と言った。
丸坊主はちょっと、さすがに嫌かも。
即席のケープの上を滑り落ちる感じからして、そんなに長くは切られていないようだ。
一通り毛先の方を切った蓉子がハサミを置く。
今度は梳きバサミを手に取った。
ジャキジャキとハサミが動き、少しずつ私の髪が減っていく。
ハラリ、ハラリ
あの時。
栞の髪を覚えていた私の髪は、全て無くなっただろうか。
あの時はまだ根元の方だった髪が毛先になって、今蓉子に切ってもらっているとしたら。
蓉子の手に切られるなら。
想い出や記憶はけしてなくなったりしないけど。でも。
未練はない。
後に残るのは、ただ郷愁のみ。
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