Good night Sweet dreams
ある秋晴れの日、祐巳は元気よく薔薇の館にやってきて二階の部屋の扉を開けた。
「あれ?」
そこには誰もいなかった。珍しく一番乗りかな?と思ったが違った。
椅子の上に鞄が一つ置いてある。そして、出窓の側に椅子が一脚寄せられている。
わずかに開いた窓から風が入ってきて、カーテンを揺らしていた。
「白薔薇さまかな?」
祐巳はいつもこの出窓に腰掛け、外を眺めている人物を思い出した。
そういえば、白薔薇さまってここからいつも何を見ているんだろう?
出窓の側の椅子に腰掛け、窓の外を見る。この窓からは中庭が良く見えた。
木々の間から広がる空が見える。窓枠を額縁に見立てると、一枚の絵のようにも見えた。
「確かにいい眺めだけれど……」
でも、毎日眺めるものだろうか?それに、白薔薇さまの視線は時々ここから見える風景とは違う、もっと別の物を見ている気がした。
ぼんやりとそんなことを考えていると、眠気が差してきた。
太陽の温もりと頬を撫でる少し冷たい風があまりに気持ちよくて、祐巳はいつのまにか眠ってしまった。
「あれ?」
先程の祐巳と同じことを言って聖が入ってきた。
聖の視線の先には窓枠に頭をもたせかけて気持ちよさそうに眠っている祐巳の姿があった。
「祐巳ちゃん?」
近づきながら声をかけてみる。
返事は返ってこなかった。
起きない……。疲れているのかな?
しばらく様子を見ていたが祐巳が起きる気配はなかった。
「ふむ」
聖はそう呟くと陽が当たって少し温かくなった祐巳の頭を撫でた。
すると、夢でも見ているのか、それとも撫でられたのがわかったのか、祐巳の顔が少し和らいだ。
「おや」
目を細めて笑いながら、今度は楽しそうに呟いた。
祐巳の耳元で囁く。
「おやすみ。良い、夢を」
そう言って聖はテーブルに近づき、いつも座る椅子に体を預けた。
そうして聖もまた、深い眠りに落ちていった。
あとがき