幸せのはっぱ


 ある日のこと。
 祐巳は意を決して祥子を昼食に誘った。外でお昼を取っている他の姉妹を見る度に、自分もお姉さまとああいう風に過ごしたいと思っていたのだ。顔を真っ赤にした祐巳の誘いに、祥子は少し笑いながら承諾した。
 この日祐巳は、お母さんには悪いけれどお弁当の味を覚えていない。

 お弁当を食べ終え会話が止まった時、祐巳は自分達の周りを何気なく見渡した。そして、ある物を見つけて目を輝かせた。
 「見てくださいお姉さま。四つ葉のクローバー!」
 にこにこと祐巳が差し出した物を、祥子は少しの間見つめた。
 「祐巳、それはクローバーではないわ」
 「え?違うんですか?」
 「それはカタバミ。よく似ているけれど違うわ」
 「そうなんですか・・・」
 祥子の説明に、がっかりと祐巳が肩を落とす。
 「もうお昼休みが終わるわ。戻りましょう」
 お弁当の包みを持って祥子は立ち上がった。祐巳も慌てて片付ける。
 と、立ち上がった祥子が再びしゃがみ込んで何かを探している。
 「落し物ですか?」
 「いえ、そうじゃなくて・・・」
 足元をさまよっていた祥子の視線が、ある一点で止まった。
 ぷち、とその草花を摘んで立ち上がる。
 「ああ、やっぱり。祐巳、これがクローバーよ」
 「あ、ほんとだ。私が見つけたのとは確かに違いますね・・・」
 「でしょう?あなたにあげるわ」
 そう言って祥子はクローバーを祐巳に手渡した。
 「え!?だ、だってこれはお姉さまが見つけたのに・・・」
 「だから、あなたにあげるの。私はさっき祐巳が見つけた方をいただくわ」
 「でもあれはカタバミだったんですよ?」
 「私が構わないと言っているのだから、それでいいでしょう」
 それとも、とそこで祥子が斜に構えた。
 「私にはくれないのかしら?」
 「いっ、いいえ!」
 祐巳がおずおずとカタバミを祥子に差し出した。
 受け取った祥子はくるくると変わる妹の表情を目を細めて見つめた。
 「ありがとう」
 「いえそんな私こそ!」
 ぺこぺこと祐巳が頭を下げる。
 チャイムが鳴ってようやく祐巳がお辞儀を止めた。
 「大変。急ぐわよ、祐巳」
 「あ、はい!」



 放課後、薔薇の館で祥子が何かしているのを令が見つけた。
 「あれ、祥子?何してるの」
 「押し花」
 「しおりにでもするの?」
 「そう」
 祥子が穏やかな表情で笑っていた。
 令はこんなに幸せそうに笑う祥子を、初めて見た。




あとがき


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