今度の会議で使う資料もまとめた。先生方へする報告も済んだ。時間配分の計算も完璧。
 仕事予定を思い返してその準備を考えた。

 ばっちりだ。

 一人満足して目線を上げるといつの間にか目の前に江利子が立っていた。
 「びっくりした。いつからそこにいたの?」
 抱えていた荷物を落とさないように持ち直して私は江利子に笑いかけた。
 「前から歩いてきたんだけど、蓉子はずっと気付かなかっただけよ」
 「ごめんなさい」
 江利子を不快にさせたかと思って素直に謝ったのだが。
 「別に怒ってないわよ」
 タイの形が美しい友人は私の腕の中からプリントを奪った。
 「今は蓉子よね?」
 歩き出した途端に変なことを言い出した。わけが分からず、当たり前でしょう、と返すと江利子が私の顔をまじまじと見つめた。
 「さっきは般若が歩いてるのかと思った」
 「般若?」
 私は般若の顔を思い出してみた。
 「そんな顔してないわよ」
 あまりに失礼な言葉に憤慨して言い返す。
 「だから、さっきはって言ったでしょう」
 私の怒りを軽く受け止めた江利子は薔薇の館を目指して規則的に歩を進める。

 薔薇の館の前まで来て足を止めた時、江利子がいきなり眉間をぐっと押さえてきた。
 「もっと力抜きなさいよ。眉間の皺が癖になるわよ」
 「・・・・・・」
 そんなに険しい顔をしていたつもりはないのだけれど。
 しかし江利子は更に追い打ちをかける。
 「あんまり考え過ぎるとハゲるわよ」
 「ハゲないわよっ」
 次から次へと飛び出す江利子の暴言に私は間髪入れずに反論した。

 ハゲる?それを言うなら江利子の方が危ないんじゃないかしら。

 私は親友のオデコを見ながらそんなことを思った。



 その夜。
 お風呂から上がった蓉子は鏡を睨みながら唸っていた。
 「ん〜〜〜〜〜〜〜」
 鏡の中には前髪を上げてオデコ全開の蓉子の顔。
 手を放すと、いつも真ん中分けをしているせいで自然と髪が分かれていく。
 「・・・・・・・・・分け目、変えてみようかしら・・・・・・」





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 私のオデコは狭いです。江利子さまのオデコは羨ましい。形のいいオデコって憧れますね・・・
 だって知恵額なんて言葉があるくらいだし。ああ、私も賢そうな額が欲しい。
 


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