秋が深まってきたある日。
 祥子さまは校門をくぐり、数歩歩いて足を止めた。
 首を動かして少し上を見上げる。
 「・・・・・・・」
 祥子さまの視線の先には、黄色く色づいた銀杏。おそらくあと少し経てば、ギンナンが落ちてくるだろう。
 「・・・・・はぁ・・・」
 祥子さまは湿っぽい溜め息をそっと空に放った。


 マリアさまへのお祈りを捧げながら、ふと、ある考えが閃いた。
 祥子さまにとって、それはまさにマリアさまがもたらしてくれた知恵としか言い様がない程、素晴らしい考えだった。



 「学園長!」
 少しだけ弾んだ声で、少しだけ乱暴に扉を開けて祥子さまは学園長室に乗り込んだ。
 「返事も待たずに入ってくるとは・・・何事ですか?小笠原さん」
 部屋の中には困惑気味な学園長がいた。
 「実は、お願いがあって参りました」
 にこやかな祥子さまを見ながら、学園長は考えた。
 一生徒が直接学園長にするお願いとは一体どういう内容なのだろう。
 「何か学園側に要望があるのであれば、きちんと手順を踏んでからでないと・・・」
 「いえ、私事ですし、内容もいたって単純なのです」
 学園長のセリフを遮って祥子さまが言った。
 「はあ・・・それで、どういった事かしら?」
 「はい。秋の間だけ、休学させてください」
 きっぱりと、祥子さまは言った。
 「なぜ・・・・・?」
 「秋はギンナンが落ちるからです」
 またしても、きっぱりと言った。
 学園長のこめかみを一筋の汗が流れた。
 「・・・無理です」
 絞るようにして言った学園長の言葉に、祥子さまは少し目を大きくした。
 どうやら却下されるとは思ってもみなかったらしい。
 しばし考え、いかにも「名案を思いついた」という顔をした。
 「小笠原家の力で・・・・・」
 「駄目です」
 この案も速攻で却下された。
 と、真剣な顔を作った祥子さまが何かを取り出した。
 「そこを何とか・・・」
 言いながら、取り出した物を差し出す。
 「?」
 まさか賄賂かと思ってそれを確認した学園長は固まった。
 「無理ですから、それはしまってくださいね・・・」
 「そうですか・・・。失礼します」
 ようやく祥子さまは引き下がった。祥子さまが出ていった後で、学園長はつぶやいた。
 「あれで動く人がいるのかしら・・・・・」

 祥子さまの手に半分隠された真っ白なハンカチを思い出しながら。





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 祥子さまならこのくらい考えるかもなーと思ってできました。
 あの賄賂なら祥子さまファンなら動くでしょう。
 ま、秋が嫌いと言っても休まず学校に来たから祐巳ちゃんとも会えたし。そう考えると祥子さまにとっては秋はそこまで嫌な季節じゃなくなったんじゃないかな?


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