時は一月、場所は長野。リリアン女学園山百合会幹部三名とその妹三名、とその妹二名。総勢八名は長野のホテルへやって来た。
「ねえみんな、スキーに行きたい?」
事の発端は江利子のその一言。
「スキー?」
「実は父がどういった経緯かは知らないけど、長野にホテルを経営してる人から『宜しかったら遊びに来ませんか』って誘われて。でも父は忙しくて行けないからその代わり、というわけでもないけど私達が行きたいなら行っておいで、というわけ」
淡々と江利子が説明する。いきなりの話に他のメンバーは驚いたが、すぐに乗り気になった。
「いいね。スキーかぁ、久しぶりだな〜」
これは、聖。
「そうね、折角だし息抜きに行こうかしら」
と、これは蓉子。
「令と由乃ちゃんは?」
「もちろん」
「行かせて頂きます」
令と由乃が二人で一つの返事を返した。
「志摩子はどうする?」
「そうですね。参加、ということで」
さて、残るは祥子と祐巳。
「祥子、あなたはどうするの?」
蓉子に言われて祥子はちょっとの間考えてから返事をした。
「特に予定はありませんから、行きます」
「そう。祐巳ちゃんは?もちろん行くでしょ?」
蓉子がくるりと祐巳の方に顔を向けた。
祐巳は力一杯に頷いた。
「はいっ!!」
その顔にははっきりと「祥子さまが行くのならどこだってご一緒します!」と書いてある。
そんな祐巳を見て聖が笑い出した。
「祐巳ちゃんは素直だねえ」
「え?」
「ううん、何でもないよ」
そして、成人式のおかげで三連休となった現在に至る。
昼過ぎにホテルに到着した一行は、荷物を置くのもそこそこにスキー用品一式のレンタルの手続きをしに行った。
が、祐巳はそこで初めてあることに気がついた。
(しまった・・・私、スキーは苦手だった・・・・)
さっと蒼ざめた祐巳の耳に救いの声が聞こえてきた。
「あ、スノーボードもあるのね」
カウンターを見ていた蓉子の声だった。祐巳は蓉子の腕にすがりついた。
「本当ですか、紅薔薇さま!?」
「え、ええ。何、祐巳ちゃんスノーボードにする?」
「はい!」
祐巳は首を激しく上下させた。
そこへ、祥子が不思議そうな顔をして訊いて来た。
「祐巳、あなたスノーボード出来るの?」
「あっ、はい。スキーよりは・・・・」
「そう。じゃあ私もスノーボードにしようかしら?」
「へっ!?」
思わず祐巳は素っ頓狂な声を出した。
「どうしてそんな声を出すの。私はスノーボードをしたことがないから、祐巳に教えてもらおうと思ったのよ」
祥子は祐巳に変な声を出され、少し眉根を寄せた。
「私が、お姉さまに教えるんですか・・・?」
「そうよ。教えてくれる?」
「私でよければ・・・・・」
「ありがとう」
祥子がふわりと笑うと祐巳の顔が紅潮した。
けれど、二人の間に一瞬漂った空気はすぐにかき消された。
「え、祐巳ちゃんがコーチしてくれるんだったら私も教わろうかなあ」
聖がにこにこしながらそう言い、そのまま祐巳に抱きつこうとした。
「白薔薇さま、スノーボードのご経験は?」
祥子がさりげなく祐巳の手を引きながら尋ねた。
「あったら教わらないでしょ、普通」
わずかの差で宙を抱いた聖は恨めしそうな視線を祥子に向けた。
「祐巳ちゃん、いいでしょ?」
聖は祥子から祐巳に視線を変えて懇願するように言った。
「・・・はい・・・」
「断る」ということができない祐巳は二人のコーチを成り行きで引き受けてしまった。
そんな三人の様子を後ろの方で眺めていた蓉子は江利子に顔を向けた。
「あなたも祐巳ちゃんに教えてもらう?」
「まさか。ここまで来てあの二人に付き合わされるのはごめんだわ」
「そうね。じゃあ、志摩子も誘って滑りに行きましょう」
聖、祥子、祐巳を残して他のメンバーはゲレンデに姿を消した。
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