「誕生日おめでとー!」
 令のその声の後に、「ございまーす」という声が続いた。
 いきなりクラッカーの音に迎えられた祥子は面食らった。
 「え・・・?」
 心臓の弱い人なら下手したらショック死しかねない迎え方だ。幸い祥子は若いし、健康なので大丈夫だったが。
 「誕生日、って・・・」
 頭に乗った紙くずを取りながら祥子が聞き返す。
 「祥子の誕生日に決まってるじゃない」
 にこにこと笑顔で令が言う。その横には祐巳も笑顔で立っている。
 「あ・・・そう言えば、今日だったわね」
 少し考えてから、祥子は自分の誕生日を思い出した。そんな祥子に祐巳が近づいてきた。
 「お姉さま、おめでとうございます」
 紙くずを取り除きながらそう言って、祥子の手を引く。
 「祥子さま、今日は会議はなしです」
 「ささやかですけど、お祝いしたいと思って」
 由乃と志摩子がお茶の準備をしながら祥子に言う。
 「お姉さま方は遅れるから先に始めていい、って」
 ストン、と祥子をお気に入りの椅子に座らせた令はそう言って、祐巳と一緒に次の行動に移る。
 てきぱきと動く四人を見ながら祥子は目を瞬かせていた。
 (去年はお祝いなんてなかったはずだけど・・・・・)


 程なくして、祥子の前にお茶とお菓子が出された。それぞれにカップが行き届いてから、令が切り出した。
 「改めて、おめでとう。さ、どうぞ」
 「ありがとう、みんな」
 祥子は紅茶を一口飲んだ。いつも飲んでいる物とは明らかに違うおいしさに、祥子は思わず声を出した。
 「これ・・・」
 すると由乃が嬉しそうに笑った。
 「あ、分かりますか?これ、葉っぱから淹れたんです」
 由乃のとっておきの紅茶葉を、志摩子が丁寧に淹れた一品だと言う。おいしいわけだ。
 「じゃあ、このクッキーは令が作ったの?」
 「そう。でも待って。祥子は、こっちから食べて」
 そう言って別の皿に並んだクッキーを出してきた。
 一つつまんでから祥子はピンときた。
 「これ、祐巳が作ったのね」
 「・・・やっぱり、下手だからすぐ分かりますか?」
 しゅんとなった祐巳に祥子が優しく声をかける。
 「違うわ。祐巳らしさがよく出てるわ。・・・・・おいしい」
 祐巳が作ったちょっと固い、でもほんのり甘いクッキーを食べながら祥子は微笑んだ。


 「今回お祝いしようって言い出したのは祐巳ちゃんなんだよ」
 「え?」
 「最近忙しくしていたから、お疲れだと思って・・・」
 (ああ、だから今年はお祝いがあるのね・・・)
 祥子が嬉しそうに笑った。と、いきなり席を立った。
 「ちょっと、ごめんなさい」
 「お姉さま?」
 「お手洗いよ」と祥子が言うと、祐巳が「じゃあ私も」とついて来た。
 階段を降りた所で、祥子は足を止めた。
 「?」
 「祐巳」
 祥子が祐巳を抱き寄せた。そしてもう一度、祐巳、と言った。
 「ありがとう。今までで一番嬉しい誕生日だわ」
 「お姉さま・・・」
 祐巳がおずおずと祥子の背中に手を回す。
 それを確認してから、祥子は腕に少し力を加えた。
 そのまましばらくの間、二人はお互いの温もりを感じていた。


 「祐巳の誕生日の時もお祝いしましょうね」
 「お姉さまが何か作ってくれるんですか?」
 「さあ、内緒・・・・・ふふ」

 祥子と祐巳が手をつないで上る階段が、楽しそうに鳴っていた。





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 焔さんへのお誕生日プレゼント用に書いた話です。
 ・・・SSにいれる長さじゃないけど・・・「SS]って言っちゃったから、ここに置きます。ん、でもぎりぎりSSかも(どっちだ)
 最初の予定ではばっちり江利子さま、聖さま、蓉子さま(五十音順)も登場予定だったけど・・・幸せなまま終わらせようと思ったから、中止。それにしても、こんなほのぼの?した祥子さまと祐巳ちゃん書いたの初めてかも。
 焔さん、誕生日おめでとうございま〜す。


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