together


 夏の終わり、聖は珍しく志摩子を誘った。
 「志摩子、今日暇?」
 会議を終え、バス停へと歩いていた時だった。
 「はい」
 「じゃ、ちょっとだけ付き合って」

 聖に「ちょっとだけ」と言われて志摩子が連れて来られたのは、川だった。
 結構遠くまで来たらしく、志摩子の知らない所だった。
 「こんな川があったんですね」
 「うん。時々一人で来てた」
 大して会話のないまま二人は歩いた。
 と、
 「下、降りてみよう」
 聖が言うなり斜面を降りていこうとした。
 「少し先に階段があるから、そちらから降りたらいいのではないですか?」
 「面倒臭いじゃない」
 志摩子の言葉をあっさり拒否して聖は降り始めた。
 仕方なく志摩子も聖の後に続いて降りようとした。

 足が、滑った。
 志摩子は転ぶ、と思って反射的に目を閉じた。
 が、その次の瞬間に痛みはなかった。
 「おっと、危ない」
 今までで一番近い場所から聖の声が聞こえた。
 「え・・・・・?」
 聖が志摩子を抱き止めてくれていた。
 まるで、そうする事が自然な事のように。
 「あ、ありがとうございます」
 「ん。やっぱり志摩子の言う通りに階段使おうか」
 そう言って聖がふわりと志摩子から離れた。
 その時、志摩子の胸に言葉にならない思いが込み上げた。
 志摩子は、聖の腕を取った。
 考えるより先に、体が動いていた。
 「志摩子?」
 「あ・・・あの、大丈夫ですから、ここから降りましょう」
 「今こけそうになったばかりじゃない」
 「お姉さまが支えてくれるなら大丈夫です」
 「そう?」
 じゃあ、と言って聖が差し出した手を志摩子は取った。
 それほど強くは握っていないのに、どこか安心できた。

 「どうして、ここに?」
 「さあ・・・。多分、志摩子に見せたかったのかな」
 聖が「あれ」と言いながら夕陽を示した。
 志摩子はそこで初めて夕陽を見た。
 燃えるような、という表現がぴったりだった。
 水面に夕陽が反射してきれいだと思う反面、怖いとも思った。
 「・・・・・・」
 黙った志摩子に、聖が言う。
 「私はもうここには来ないだろうから、最後に志摩子とね」
 「なぜもう来ないのですか?」
 「今は志摩子がいるから」
 志摩子は微笑みを浮かべた聖の顔をきれいだと思った。
 無言で差し出された手を取って、斜面を昇っていく。
 帰りしな、
 「夕陽ってさ、これだけ赤かったらちょっと怖いよね」
 さっき志摩子が感じた事と同じ様な事を聖が言った。
 「そうですね」
 そう返事をしたが、志摩子はもう怖いとは思わなかった。
 繋がれた手から伝わってくる温もりが体中に染み渡ってくるのを感じる。
 握り返す聖の手も、さっきよりわずかに強くなっていた。


あとがき


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