祐巳が列に並んだ頃、祥子は祐巳を探して歩いていた。
 「祐巳ったら・・・私がトイレに行ってる間にどこかへ行ってしまうなんて・・・・・」
 しようのない妹だ、と思う反面そんな所はかわいいと思う。祐巳の事を考えるとつい緩みがちになる口元を引き締めて、祥子は祐巳の居場所を考えた。
 (そういえば武嶋蔦子さんの写真を見に行く話をしてたわね・・・)
 祥子がその場所に行くと、はたして祐巳はいた。


                    * * * * * * *


 「祐巳?何をしているの?」
 祥子が声を掛けると、教室の外にはみ出している列に並んでいた祐巳が慌てたように振り向いた。
 「さ、祥子さま!なぜここに!?」
 「なぜって・・・あなたを探しに来たのよ。いきなりいなくなるから探したわよ」
 「あ!・・・すいません・・・」
 空気の抜けた風船のようにしぼみながら祐巳が謝った。
 別に祥子は怒ってはいないからその事はいいとして、祐巳の並んでいる列が気になった。
 「ところで、祐巳は何の順番待ちをしているの?」
 「へっ?いや、これは別に何でもないです。さ、他の所を見に行きましょう」
 明らかに何か隠している祐巳の態度にますます列の正体を知りたくなった。
 「でもせっかく祐巳が並んでいたのだから、ここを済ませてから他に行きましょう」
 祐巳が、諦めたように頷いた。

 列が進むにつれ、祐巳の落ち着きがなくなってきた。
 そわそわと動き、その表情はこの世の終わりだと言わんばかりだ。
 原因はやがてわかった。

 教室の中まで列が進むと、中央に大きなパネルがあった。
 祐巳の顔がくり抜かれて。
 祥子は蔦子さんに迫った。
 「蔦子さん!」
 「うわあ、祥子さま!」
 蔦子さんは何やらひどく驚いたが、そんな事はどうでもいい。
 「どうして祐巳の顔の所をくり抜いているの?」
 「そ、それは・・・・・」
 言い淀む蔦子さんに祥子は重ねて言った。
 「せっかくの祐巳等身大パネルなのに、顔を抜いてしまったら意味がないじゃない!」

 なぜか、少しの間沈黙が降りた。

 「あの、祥子さまは祐巳さんの顔を抜いた事に抗議されているのですか?」
 「そうよ」
 何を今更、と祥子は返した。すると蔦子さんがどこかほっとした表情で言った。
 「でしたら祥子さまの顔を抜いた方が良かったですか?」

 私の顔を抜くという事は今の反対だから・・・・・・

 少しの間考えた祥子はきっぱりと言った。
 「祐巳目当ての人が集まるからだめ。祐巳のタイを直すのは私だけよ」


 祥子さまと蔦子さんのやりとりを傍で聞いていた祐巳は心の中で突っ込んだ。
 祥子さま、怒るポイントが違います。
 蔦子さんも、そういう事じゃないだろう・・・・・・

 どこかずれた思考のお姉さまと友人の横顔を祐巳はぼんやりと眺めていた。





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 前回の続き、祥子さま視点。姉ばか(祐巳ばか)祥子さま。
 もし祥子さまの顔を抜いたら薔薇さま方は絶対に来ると思う。で、祥子さまをからかう。ああ、そっちでも面白いものが出来たかもしれないなあ。
 おばかな祥子さまって可愛いです。
 モゲラはお姫さま祥子よりちょっとおばかな祥子さまが好きです。


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