your name

 「あ」
 突然聖が声をあげた。隣でまどろみかけていた蓉子が聞き返す。
 「何?」
 そんな蓉子を、「しまった」という顔を一瞬浮かべた聖が見つめてふっと微笑んだ。
 「うん、いや、ずっと前、蓉子が自己紹介の時に蓉子の『蓉』は『芙蓉』の『蓉』だって言ってたな、って」
 「それがどうかしたの?」
 聖の顔を覗き込むようにして、蓉子が尋ねる。蓉子の視線に少し目を細めて聖が言葉を続ける。
 「蓉子には、似合わないよ」
 「どうしてよ」
 言われた蓉子がちょっとむくれる。むくれる蓉子に答えを返さず、代わりに聖は蓉子の髪を手で梳いた。
 さらさらとした感触を少しの間楽しんでから、聖が口を開く。
 「芙蓉って一日で萎んじゃうって知ってた?」
 その事を知らなかった蓉子が素直に感嘆の声をあげた。
 「へえ、そうなの?知らなかったわ」
 聖が蓉子を抱き寄せた。そして耳元に唇を寄せ、もう一度同じ事を言った。
 「蓉子には、似合わないよ」
 「だから、どうしてよ」
 なぜそう言われるのか理由がわからない蓉子がちょっと顔を上げ、聖を軽く睨む。
 お互いの息が顔にかかるほどの距離に聖は少し顔を赤らめると、抱き寄せた腕に力を込めた。
 「蓉子の輝きは一日じゃ消えないから」
 「え?」
 「蓉子は太陽みたい。私を照らして、導いてくれる光みたいだよ」
 そこまで言って聖は腕に込めていた力を抜いた。その表情はどこか照れ臭そうで、それでも蓉子を見つめる瞳だけは優しい光に満ちていた。
 蓉子は聖の瞳の光を受け止めると幸せそうに微笑み、聖に腕を伸ばして抱きしめた。
 「私が太陽なら、聖は夜の家の灯りね。いつも温かく迎えてくれて、私を優しく包み込んでくれるわ」
 意外だ、という顔をして聖が問う。
 「私も、蓉子の支えになれてるの?」
 「当然よ。聖、私はあなたの全てが好きよ。だからずっと側にいて頂戴」
 蓉子が花のように微笑んだ。それを受けた聖が蓉子の腰に手を回し、額に口付けを送る。
 「うん・・・・・ありがとう・・・・・」


 夜が静かに更けていこうとしていた。

あとがき
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