祐巳と蔦子の夏休み
その日、福沢祐巳は友人の武嶋蔦子さんに誘われてテニスコートに立っていた。
念のために言っておくが、決して祐巳がテニスをするわけではない。今日はここでテニス部が試合の試合が行われるのだ。
夏休みも半分が過ぎてしまったにも関わらず、暑さで宿題がちっとも片付いていなかったところにこの誘い。どうせ同じ暑い思いをするならば気分転換に、と祐巳は蔦子さんの誘いに乗ったのだ。
制服着用のこと、と言われて何でだろう?と思っていたのだが、それは到着してすぐにわかった。
「これ付けて、これぶらさげていたらいいから」
そう言われて腕章とカメラを渡された。どうやらフェンスの中にはテニス部員や写真部しか入れないらしい。
そういうわけで祐巳は一日カメラマンとなっている。
試合が始まった。最初はシングルス戦らしく、一人ずつコートに現れた。リリアンの出番はまだなので、蔦子さんが祐巳に向けてシャッターを切った。
「一日カメラマンの祐巳さんをぜひ撮っておかないと」
笑ってそう言うと蔦子さんは続けてシャッターを切った。
「あ、桂さん」
第二試合にクラスメイトの桂さんが出ていた。今日の試合は合同練習試合だから、桂さんのように一年生でも出場させてもらえるのだそうだ。蔦子さんの説明を受けて、祐巳は「ふうん」と頷いた。
パコーンと気持ちのいい音が聞こえる。そして蔦子さんがシャッターを切る度、カシャカシャという音が聞こえ、セミの声がそれに重なった。
その時、桂さんが転んだ。膝を擦るのが見えた。下は砂だ。祐巳が痛そうだな、と言うと蔦子さんがちょっと笑った。
「そりゃ、痛いよ。テニスコートっていうのはゴムの所もあるけど、ここは砂だからね」
「へえ、ゴムの所もあるんだ」
桂さんはすぐに立ちあがって試合を続けた。
パコン
「それにしても」
パコーン
「何?」
パコーン
「テニスと言えばスコートなのに。最近ちょっと廃れ気味よね」
蔦子さんがシャッターを切りながら残念そうに言った。言われて周りを見渡せば、確かにスコートよりも短パンやハーフパンツの方が目立つ。ちなみに、リリアンはスコートだ。スコートなんて物はスタイルに自信のある人はいいが、そうでない人が穿くにはいささか勇気がいる代物だと祐巳は思う。短パンなどが普及しているのには、そういう理由があるのだと思う。
スパン!
その時相手のスマッシュが決まった。桂さんは負けてしまった。でも、ベンチに引き上げた桂さんの表情は清々しかった。同じテニス部である桂さんのお姉さまが、さっき擦りむいた膝の手当てをしている。
「ま。まだ高一の夏だしね」
その光景を撮っていた蔦子さんがカメラを下げてつぶやいた。
祐巳はセミの声を聞きながら次の試合が始まるのを待った。
あとがき
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