続・お見舞いウォーズ




祥子は福沢家の前で落胆の表情を浮かべて立っていた。

視線の先には、ドアノブに結ばれたハンカチ。

「――――」

学校で少々足止めを食らったとはいえ、祥子にはこの戦いに勝利する自信があった。

それなのに。

その時、諦めて帰ろうとした祥子にとって聞こえてくるはずのない声がした。

「祥子?何してるの?」

「ロ・・・白薔薇さま!?」

二人とも、「どうしてそんな所に立っているの?」という顔をして、目を瞬かせた。

「だってハンカチが―――」

「ハンカチ?」

どれどれ?と問題のハンカチを観察する、聖。そして。

「これ、私のじゃない。誰のだろう?」

「白薔薇さまではないのですか。では一体―――あっ」

「どうかした?」

「これは、お姉さまのハンカチです―――」

「え」

聖と祥子は呟いてからしばらく、言葉を失った。

ピンポーン。

不測の事態に頭を整理していた祥子は驚いた。

何と、聖がインターホンを押したのだ。

「何をなさっているのですか!?」

「え、だって。この場合はねえ。祥子は帰る?」

「かっ、帰りません!」



同じ頃、福沢家のリビングにて。

インターホンが鳴ると、蓉子が笑みをこぼした。

「あら、意外と早かったわね」

祐巳のお母さんが「はーい」と出ていこうとするのを蓉子が変わって、玄関へ向かった。

蓉子が開けたドアの向こうには、面白くなさそうな顔をした聖と祥子が立っている。

「二人とも、遅かったわね」

先程と正反対な事を言いながら蓉子は二人を招き入れた。

「お姉さま・・・」

「なあに、祥子」

「一体どういう事なのでしょうね、紅薔薇さま」

祥子の後を聖が続ける。

「嫌ですわ、白薔薇さま。私が来ないなんて、いつ言ったかしら?」

それは屁理屈だ。

聖と祥子は同時に思ったが、口には出さない。

勝てるわけがないのだから。



リビングに入った聖は思わず声を上げた。

「志摩子まで!?」

「お先に失礼しています、お姉さま」

さすがの聖も驚きを隠せず、口が開いたままだった。

と、何だかんだあったが今は落ち着いて。

「祐巳ちゃん、元気そうだね」

祐巳のお母さんが大喜びで淹れてくれたとっておきのお茶を飲んでから、聖が言った。

もちろん、お茶を誉めるのは抜かりない。

「はい。明日は学校に行きます」

「そう。良かったわ。でも無理をしてはだめよ」

「はいっ」

祥子がお見舞いに来てくれて、祐巳の心は幸せで一杯かと言うと、実はそうでもなかったりする。

今現在祐巳の心の八割を占めている事はと言うと、パジャマ姿で恥ずかしい、という事だ。

だがしかし、今更着替えに行く事はできず、カーディガンを肩にかけるだけになった。

「聞いてよ祐巳ちゃん。来る途中で妨害にあってさー」

「妨害にあったのは私の方ですわ」

「何の事かなあ?」

「とぼけないで下さい。わざわざ私を指名して下さって、ありがとうございました」

にっこり。

まさに極上の笑み。殺気立っている所を除けば、だが。

「いえいえ、どういたしまして」

祥子の嫌味に臆せず、聖も笑顔で返す。

その様子を見ていた祐巳は、なぜだか手が汗ばむのがわかった。

祥子と笑顔の応酬を終えて、聖が続ける。

「工事中の看板なんか出てるんだよ。信じられない」

聖の話を聞いた祐巳は不思議そうに首を傾げた。

「うちの近くで今工事なんてやってないですけど―――」

「へ?」

聖が変な顔をした。

「え、だって・・・」

「まあまあ。災難でしたわね、白薔薇さま」

聖はまだ何か言おうとしたが、蓉子がにこやかに、しかし有無を言わさず締めくくった。



日が暮れかけた頃、四人は帰る事にした。

玄関先で祥子は祐巳に声をかけた。

「今度は祐巳の体調がいい時にお邪魔するわ」

「はい、ぜひいらして下さい」

などと一組の姉妹が仲良くしている傍らで。

「今日は突然お伺いしてすみませんでした」

「気にしないで。それより、また遊びに来て下さいね」

「はい、喜んで」

ほんのり顔を紅潮させている祐巳のお母さんに、爽やかな笑顔をもって対応する聖がいた。

少し離れていた蓉子が、志摩子に囁く。

「次はどっちが先に祐巳ちゃんのお宅にお邪魔するのかしらね」

「さあ、どうでしょう。あの、今日の事は――――」

「ふふ、もちろん黄薔薇さまにも報告するわよ。喜びそうだし」



福沢母に気に入られた聖と、福沢娘に好かれている祥子。

二人の戦いはこれからも続くのであった―――――


あとがき


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