家に帰ると、はるかがチョコレートを食べていた。
私があげるチョコはまだ私の手の中。
じゃああれは誰から貰った物?

―――答えは明白。


小さな箱のチョコレートを食べ終えたはるかは、どこからともなく同じような包みを取り出した。
くるくる回して観察したかと思うと、包みを開けてゆっくり食べ始める。
それを食べ終えるとまた、別の箱。

一体、いくつあるのかしら。

痺れを切らして私は声をかけた。

「それで何個目なの?」
「ん?ええと…食べたのはこれで七個目かな」

クッキーを口の中に入れながら脇に置いていたらしい紙袋を持ち出した。


ちらりとカードが目に入る。


名刺くらいのサイズのカード。


その上に綴られた、どんな紙にも収まりそうにない想いを表した短い言葉。



…見つけなければ良かった。


「まだこれだけあるけどね…」
そんな私に気付かず弱々しくはるかが笑う。
紙袋の中には、見えるだけでも大小様々な包みが十個はある。
その下に一体いくつ入っているかは、あまり想像したくない。

「事務所の人が親切にも届けてくれてねー…。
 こういうのって、捨てるには抵抗あるしさあ」
複雑に笑いながらはるかは食べ続ける。


―――予想通り。


はるか。


――――あなたが受け取ったのは、本当に、チョコレートだけ?



クッキーを食べ終わって新たに紙袋に手を伸ばすはるかを見て、私は立ち上がった。
甘い物続きのようなので少し濃い目のコーヒーを作る。
マグカップをはるかの前に置くと、熱さも気にせず口をつけた。

「あ〜美味しいー。これだけ甘いのが続くとこのくらい濃くて丁度いいや」
微かに眉間に皺を寄せたはるかを見て、苦すぎたのかもと思った。
でも、はるかは二口目の手を伸ばしてくれた。

はるかが一つ大きく息をつく。よし、と声を出して食べかけのチョコに向き合った。
生チョコを噛まずにキャンディのように舐めるのは、あなたの可愛い癖。

辛そう、とまではいかないが、殆ど無表情で食べ続けるはるかを見ていると迷いが生まれる。

今更私がチョコをあげることは、はるかを苦しめるだけなんじゃ?

「訊いてもいい?」
「ん?」
「こういうのって、沢山貰えたらやっぱり嬉しいものなの?」

軽く様子見の問い掛けをしてみる。答えによっては私のチョコの運命が大きく変わるのだ。

「うーん、そうだなぁ…」
はるかは、僕だったら、と前置きをしてから教えてくれた。

「甘い物好きだし、気持ちは嬉しいよ。
 でも僕は自分が一番好きな人から貰えるなら、それ一個でいいけどね」

コーヒーの表面を揺らしながらゆっくり言った。

つまりはるかは数じゃない。と、言うことは。


……私、あげてもいいってことよね?


はるかが一段落するのを待って私は箱を取り出した。

「あのね、はるか」
「ふん?」

丁度カップに口を付けたところのはるかが鼻の奥で返事をする。

「私もチョコ、あるんだけど」

両手ではるかに差し出して見せる。

ごくん、とコーヒーを飲み込んだはるかが目を丸くした。

――そんなに驚くことなの?

箱と私を交互に見ていたはるかがおもむろに口を開いた。

「―――貰ったの?」
「違うわよ!」

この人、本気で言ってるのかしら。…まあ、貰いそうになりはしたが丁寧に断った。

「じゃ、これ…」
「私からはるかに」
「――え、作ったの?」
「そうよ」

なかなか素直に受け取らないはるかに、少し強引に押しつけた。

じっと私が渡した箱を見ていたはるかはやがて、締まりなく笑った。

「開けてもいい?」
見ているこっちが照れてしまうくらい笑顔を向けながら尋ねてくる。
「どうぞ」
その笑顔が可愛くて、照れ隠しに苦笑いしながら言うと、はるかは傍目に分かる程うきうきしながら包みを解いていく。

箱を開けてにこにこと中のチョコを見ていたが、一つも食べることなく蓋を閉じた。


「今は勿体無くて食べられない」

元の状態にきれいに包み直しながら笑った。

「明日、食べる」

いかにも大事そうに扱ってくれる様子が、何だかすごく嬉しい。
こっそり作って良かった。




ねえ、はるか。





お願いだから、明日は私から以外のチョコは食べないで?





あとがき




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