drive your dreams


 「みちる、今日は暇だろう?ちょっとドライブしようよ」
 天気の良いある日、はるかがそう言った。
 「今日は特に予定はないけれど…」
 みちるは言葉を濁した。それというのも、この間まことを乗せた時の会話が気になっているからだ。

 あの時はるかは「海外でライセンスを取ったんだ」と言っていたが、あれは多分嘘だ。みちるははるかの免許証を見た事がなかった。

 はるかの腕を疑う事はないが、警察と関わって面倒な事にはなりたくない。
 「どうしたの?」
 煮えきらない返事を返すみちるにはるかが問いかけた。
 みちるは意を決して、言った。
 「はるか。あなた、自動車免許、本当に持っている?」
 一瞬はるかが目を見開いた。
 「えっ?どうして?」
 「いいから。正直に言って」
 「……持ってない」
 少しの沈黙の後にはるかがボソリと言った。それを聞いてみちるは「やっぱり」と胸の内で嘆息した。

 「あのね、はるか。あなたの腕を信用しないわけじゃないけど、やっぱり免許は取った方がいいんじゃない?」
 「だって僕はまだ十八になってないもの」
 「馬鹿ね、あなたが言ったように海外でライセンス取ったらいいじゃない」
 「そんな暇がどこにあるんだよ」
 はるかの口調が少し強くなった。かといって怒っているわけではない。拗ねているのだ。みちるははるかの拗ねた表情を見る事が密かな楽しみだった。

 「あら、それじゃあはるかは無免許運転で捕まりたいのかしら?」
 「それは嫌だけど…」
 「嫌なら免許取りなさい。どうしてもはるかが免許取らないなら、もうはるかの車には乗らないわよ?」
 渋っているはるかにみちるは切り札にとっておいたセリフを言った。
 「えっ!?」
 案の定はるかはひどく驚き、それからものすごく悲しそうな顔をした。
 そのはるかの顔をみたみちるはこっそりと笑った。
 (はるかって私といる時はどうして幼く見えるのかしら?)
 理由は大体わかっている。はるかが、みちるに対してはそれだけ心を許してくれていると漠然と思う。

 「そんなに悲しそうな顔をしないで、はるか。私だってはるかの車に乗るのは好きよ。だから、お願い。免許を取って欲しいの」
 後半の方はしっかりとはるかの目を見つめて、みちるが言った。
 みちるは今までの経験から、こうすればはるかが頷く事を知っていた。

 「…わかったよ。みちるにそこまで言われて、取らない訳にはいかないよ」
 はるかが頷き、みちるがパッと顔を輝かせた。
 「ありがとう、はるか」
 「いや何。さて、じゃあいつ行こうかな?」
 「もちろん今すぐに決まってるでしょう」
 「ええっ!?今すぐ!?いくら何でもそれはちょっと…」
 はるかの言葉に今度はみちるが悲しそうな顔をしてみせた。
 「私、早くまたはるかの車の助手席に座ってドライブがしたいのに…」

 はるかは腹をくくったらしく、言葉を搾り出した。
 「わかったよ…」

 満足そうに微笑むみちるを尻目にはるかがひっそりと溜め息を吐いた。


あとがき




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