睡

Smoke　Gets　in　Your　Eyes.....





目の前で未だ眠り続けるみちるを、はるかはぼんやりと見つめていた。

コンサート会場から出た途端、崩れるようにして眠り始めたみちる。

慌てて自分のマンションに運び込み、医者にも診せた。

診断結果は、疲労が溜まっているだけ。このまま寝かせていても大丈夫、だった。

心配で仕方なかったが、はるかもよく診てもらっている（みちるに無理矢理）医者の言うことなので、

そのまま寝かせ続けて、丸一日。

みちるが目覚める気配は、まだ、ない。

倒れた時より顔色はいいから、体調は回復していっているのだろう。

それにしても。

はるかは、みちるが倒れるところを初めて見た。

自己だけではなく、はるかの体調管理もやってしまうみちるが。

「君も、完全無欠じゃないってことか」

みちるの頬にかかっていた髪を指先で払いながら、笑いを含んだ声ではるかが一人つぶやいた。

静かに、深く眠り続けるみちるの顔を見ながら、あることに気づいた。

―――――今までみちるが眠る姿を見たことがあっただろうか――――――――

正確には、はるかより先に眠るみちるを。

朝、はるかがみちるより先に目覚めることはあるが、それもごくたまにの話だ。

大抵みちるは、はるかより遅く寝て、早く起きている。

「もしかして、みちる、寝てなかったのか・・・・・？」

はるかの疑問に答えられる唯一の人物はまだ覚醒しない。

「ごめん、みちる。・・・・・ごめん」

手を握り、謝る。

そしてそのままベッドの脇に座りこんで眠った。



室内が夕陽で赤く染まる頃、はるかは目を覚ました。

相変わらず微弱な寝息を立てているみちるの顔にちらりと視線を送ってから、

そっと繋がっている手を解いた。

そして煙草に火を点ける。

喫煙は、体力が必要とされるスポーツ選手にとって、けして好ましいとは言えない。

それでもはるかは、ごくたまに吸っていた。

半年で約一箱という極めて少ない量だが、はるかは自分が精神的に疲弊している時や、

考え事をする時に手が伸びているという事実に気づいていない。

ふ―――――、と長い息を吐き出して、煙を外へと逃がす。

ゆっくりと、時間をかけて吸っていく。



「ぅ、ん・・・・・」

不意にはるかの耳に、みちるの微かな呻き声が届いた。

慌てて煙草を揉み消してベッドに近寄る。

「みちる」

目を覚ましたみちるは、ぼんやりした眼差しで天井を見つめている。

「おはよう、みちる」

できるだけ優しい声音ではるかが声をかけた。

その声に反応して、みちるがゆっくりと顔を動かした。

「・・・はるか。・・・・・泣いて、いたの・・・？」

「え？」

はるかは目元に手をやった。

濡れていない。

「そんなことないさ」

明るく言ったはるかだが、顔が笑っていたかは自信がない。

「泣き出しそうな顔してる」

上体を起こして頬に手を伸ばしてくるみちるを、はるかは目を見開いて見ていた。

「ちょっと、煙草の煙が目に入っちゃってね」

頬に触れたみちるの手を、くしゃっと握る。

肩を押して再びベッドに横たわらせる。

「それより、もう少し眠ろう？・・・疲れたよ」

そう言ってシャツを脱ぎ、シワにならないように椅子の背に掛けた。

はるかがベッドに入ると、みちるがくっついてきた。

「はるかの匂いがする」

鎖骨の辺りに息がかかるのを少々こそばゆく思いながらも、はるかはみちるの頭を抱いた。

「ねえ、はるか。私、夢を見たの」

「夢？」

「そう。久し振りに見たわ」

「・・・どんな夢？って訊くのは、明日にするよ」

「ええ、朝になってからね」

みちるの声がとろんとしてきた。

「それにしても、はるかの匂いってホントに、落ち、つく―――・・・」

そう言うと、みちるは意識を手放した。

それを見届けたはるかもまた、みちるを追いかけて眠りに落ちた。








あとがき

一番最初の「Smoke〜」にピンときた方、趣味が似てるのかも。嬉しくないでしょうが（笑）

なんだか久し振りなはるみち。
愛情は「マリア様〜」に負けず劣らずあるのに。年季はこっちの方が入ってるし。
この話を最初に、更新ラッシュしようかなと思ってます。はるみちの。
週一更新しようかな。あと三本用意してるので、約一ヶ月続く予定です。

今回、姉からスタイルシートを拝借してみました。
どれか一つに統一したほうがいいのかどうか・・・
そんなことになったら、全部やり直さないといけないから、ちょっとメンドクサイなと思ってみたり（笑）
まだしばらくは色々なパターンを試してみますが。

今年の夏は蝉の鳴き声をあまり聞かなかったなあ。
みなさんはどうなんでしょうね？