耳が痛くなるくらいの静けさの中で生まれたこの気持ちを、何と呼ぼう? クリスマスをもうじき迎えようとしている日の、午後。 ほたるにせがまれてツリーの飾り付けを終わらせて、一息入れようとこっそりお茶の用意をして戻ってきた僕は、リビングの入り口付近で足を止めた。 みちるが、子守唄を弾いていた。 正直、珍しいと思った。 童謡の類は今まで数える程しか弾いていないみちるが。 今、ひどく優しく音を紡いでいる。 邪魔しちゃ悪いと思って足を止めていたら、徐々にみちるの音色が終わりに近付き、やがて余韻を残して消えた。 その、後。 僕は、その光景を記憶の奥底に焼き付けた。 ツリーの方を向いて眠るほたるの髪を、みちるがゆっくり撫でている。 子守唄の音の余韻がちょうど消えた中で。 「ほたるは眠っちゃったのか」 みちるにお茶を渡しながら、僕は声をかけた。 「さっきまではずっとツリーを眺めていたのに、いきなり電池が切れたみたいに、ぐっすり」 ほたるの髪を撫でる手を止め、お茶を受け取ったみちるが声を潜めて言う。 改めてほたるを見ると、その小さな手にしっかりと星型のオーナメントを握っている。 「ああ、結局飾れなかったんだ」 それはほたるが自分一人で飾るんだと、ずっと格闘していた物だ。 飾ってやろうとひょいと手を伸ばしたところで、みちるに止められた。 「ほたるに飾らせてあげましょうよ。あんなに頑張っていたのだから」 「・・・そうだね」 僕はそっと手を戻した。 みちると一緒に、ほたるの寝顔を覗きこむ。 ほたるは、ここには身の危険など一つもないのだと、すっかり信じきったような穏やかな表情で寝息を立てている。 その様子を見てわけもなく、どうしようもなく嬉しくなった僕と、一緒に眺めていたみちるががほたるの頬に口付けをおくるのは、まるで示し合わせたかのようなタイミングだった。 |
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